マイクロ波の浸透深度

マイクロ波の浸透深度

マイクロ波の浸透深度は方程式(2)に従って計算されますが、この式はマイクロ波を照射する材料の誘電特性に浸透深度が依存することを示しています。 マイクロ波の浸透深度は材料表面における初期値の37%までマイクロ波エネルギー密度が減衰ないし減少した深さを示します。 材料の誘電損失率 εr’’ (複素誘電率の虚数部分)が高いほど、マイクロ波エネルギーの吸収が速くなります。 マイクロ波の電力l密度は材料の表面から中心領域へ向かうにつれて指数的に減少します。

Penetration depth

図 1. マイクロ波の浸透深度(図中の青のxで示す部分)は、周波数の増加にともない減少します。グラフ領域の左側は空気で、右側はマイクロ波を照射する材料です。

f = 周波数、単位はHz(ヘルツ)
εO = 絶対誘電率 (DC) = 8,85x10-12 As/Vm
с = 3x1010cm/s 光速
Ε = 電界の強さ、単位 V/m
ε = εO * ( εr’ - j εr’’ ), 複素誘電率
tan δ = εr’’/εr
δ = 誘電損失角度、単位 度数
λ0 = 波長、算定式 λ0 =c / f

表1は各種の材料についてマイクロ波の浸透深度を計ったものです。文献資料では時々表中の倍の浸透深度の数値が報告されることがあります。

材料 温度、°C 浸透深度、 cm
45 1,4
95 5,7
-12 1100
パン 25 2 ... 5
生ジャガイモ 25 0,9
すりつぶしたジャガイモ 25 0,8
えんどう豆、にんじん 25 1
25 0,9 ... 1,2
段ボール 25 20 ... 60
木材 25 8 ... 350
ゴム 25 15 ... 350
空洞グラス 25 35
陶器 25 56
PVC20 20 210
エポキシ樹脂(Araldite CN-501) 25 4100
テフロン 25 9200
水晶ガラス 25 16000

表 1. 各種材料での2450MHzマイクロ波電力の浸透深度

表1は各種材料のマイクロ波浸透深度を示しますが、文献資料の中にはこれらの値の倍のマイクロ波浸透深度の値を報告するものがあることには注意する必要があります。

サイズが大きく嵩張り、誘電損失率が高い製品では外部表面の極めて分厚い層の中が過熱するおそれがあります。こうした過熱を回避するには、マイクロ波電力の密度を、外部と中心部の間で行われる熱交換に十分足りる時間的余裕を得るように設定する必要があります。 マイクロ波を照射する材料の厚さがマイクロ波の浸透深度より薄ければ、供給されたマイクロ波エネルギーの一部だけが材料に吸収されます。

しかしこのケースは、材料に吸収されなかったマイクロ波電力が材料から遠ざかった後拡散する場合だけ正しいことで、吸収されないマイクロ波電力は照射炉(チェンバー)の金属壁から反射して、材料に一回以上浸透することとなります。

マイクロ波加熱に必要な電力密度についてさらに考慮すべき点は、照射炉(チェンバー)内部で適切な電界の強さが維持されることです。大気中では、この値は乾燥空気の破壊強度 (30 kV/cm)より強度が数桁低い値であるのが一般的です。 真空中でのマイクロ波照射の場合、または、照射炉(チェンバー)内の空気の湿度が極めて高い場合には、電界の強さは空気の電離が生じない範囲までに止めることが必要です。 これにより、製品と設備が損傷するリスクを回避することができます。